潰瘍性大腸炎は、この20年で患者数が3倍に増えたといわれる難病です。
正しく付き合うことで通常の生活を送れますが、長期的な治療と管理が欠かせません。
本記事では、潰瘍性大腸炎の原因や症状、治療方法などをご紹介します。
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性腸疾患(IBD)です。
症状は持続的で、直腸から始まり連続的に大腸全域に広がります。
活動期と寛解期を繰り返し、重症度や病変範囲で分類されます。
慢性疾患のため、適切な治療が必要です。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の正確な原因は不明ですが、以下の要因が関わっていると考えられています。
- 潰瘍性大腸炎やクローン病の家族がいる人
- 生活環境
- 腸の過剰な免疫反応(自己免疫異常)
- 腸内細菌のバランス
- 生活習慣の乱れ
- 高脂肪、高カロリーの食習慣
一方で、虫垂を切除した人や喫煙者は発症しにくいという報告もあります。
ストレスは直接的な原因ではないと考えられていますが、症状が悪化するきっかけとなり得るため注意が必要です。
大腸がんとの関係
潰瘍性大腸炎は、大腸がんの発症リスクを高めることが報告されています。
以下は、リスク上昇の要因と考えられているものです。
- 発病から7〜8年経過
- 病変が広範囲
- 胆管の炎症を併発
しかし、以下の対策で大腸がんのリスクを軽減できるともいわれています。
- 5-ASA製剤の継続投与
- 定期的な受診と内視鏡検査(1~2年に1回)
軽症患者の大腸がん合併率は低く、寿命は健常者と変わりません。
大腸がん発症時も早期発見・治療で予後は良好になる人が多いです。
潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎の主な症状は以下の通りです。
- 頻繁な下痢
- 腹痛(痙攣性または持続的)
- 血便や粘血便
初期は軽症で痔と間違えられることもありますが、次の兆候が見られます。
- 下腹部の違和感
- 軽度の腹痛
- 便意の切迫感
- 軽い下痢や血便
症状が重症化すると、次のような状態に陥ることがあります。
- 1日20回以上の排便
- 激しい腹痛と下痢
- 高熱
- 体重減少、貧血、脱水
- 血液や粘液のみの排泄物
- 夜間症状による睡眠障害
クローン病との違い
潰瘍性大腸炎とクローン病の主な違いは以下の通りです。
クローン病について、詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
【関連記事:クローン病とはどのような病気?食事のポイントや治療法を解説】
潰瘍性大腸炎
- 発生部位:大腸粘膜に限定。直腸から連続的に広がる
- 好発年齢:20代〜30代。男女差なし
- 患者数:約20万人
クローン病
- 発生部位:口から肛門までの消化管全域に非連続的に発生
- 好発年齢:10代後半〜20代前半。男女比は約2:1で男性に多い
- 患者数:約7万人
潰瘍性大腸炎で起こり得る合併症
潰瘍性大腸炎で起こり得る合併症は以下の通りです。
大腸内の合併症
- 大量出血
- 中毒性巨大結腸症
- 劇症大腸炎
- 穿孔(腸に穴があく)、腹膜炎
- 狭窄(腸が狭くなる)
- 大腸がん
腸以外の合併症
- 関節炎
- 目の炎症(虹彩炎、上強膜炎、ブドウ膜炎)
- 口内炎
- 肝臓、胆管、胆のう、膵臓の病変
- 鉄欠乏性貧血
- 皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)
- 脊椎炎
- 骨粗しょう症
- 尿路結石
- 仙腸骨炎
潰瘍性大腸炎の検査方法
潰瘍性大腸炎の診断は、以下の順に行われます。
1.問診:症状の経過や病歴を確認
2.鑑別検査:他の感染症と区別
3.画像診断:腹部X線、大腸内視鏡検査
4.病理診断:大腸粘膜の生検
主な検査方法
- 血液検査:炎症、貧血、栄養状態を確認
- 便の検査
→便潜血検査
→便中カルプロテクチン検査:炎症の程度を判断
→便培養検査:細菌や寄生虫の有無を調べる - 大腸内視鏡検査:粘膜の直接観察、組織採取
- CT検査:内視鏡困難時や合併症確認時に実施
- カプセル内視鏡:通常の内視鏡検査が困難な場合
- 下部消化管造影検査:症状安定時に実施
潰瘍性大腸炎の方が注意したいこと
潰瘍性大腸炎は、適切な治療で症状が落ち着けば、通常の日常生活を送れます。
仕事や学業への制限はありません。
食事
消化の良い食品をゆっくりよく噛んで食べることが重要です。
■症状がひどい「活動期」
消化がしやすくて高エネルギー、高たんぱく、低脂肪、低繊維の食事を心掛けましょう。
水分とミネラルの補給も欠かせません。
避けるべき食べ物・飲み物としては、不溶性食物繊維、脂っこい料理、刺激の強い香辛料、カフェイン、アルコール、炭酸飲料、冷たい飲み物などが挙げられます。
■症状が落ち着いている「寛解期」
厳しい食事制限は不要ですが、バランスの良い食事を心掛けましょう。
刺激物や暴飲暴食は控えて、アルコールやコーヒーは少量にとどめてください。
運動
活動期は過度な運動は控えたほうがよいですが、寛解期は特に制限はありません。
ただし適度な運動や睡眠不足、ストレスをためない生活は常に心がけ、運動するときはこまめに水分補給をしましょう。
潰瘍性大腸炎の治療法
潰瘍性大腸炎を根治する治療は現在ありません。
薬を使って炎症を抑え症状を軽減し、寛解期を長く維持する治療が基本となります。
薬物療法
主に使用される薬剤は、以下のとおりです。
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
- 代表的な薬:サラゾピリン、ペンタサ、アサコール、リアルダ
- 対象:軽度~中程度
- 効果:大腸の炎症を抑える、寛解維持、大腸がん予防
- 種類:内服薬、注腸薬、坐剤
副腎皮質ステロイド薬
- 代表的な薬:プレドニン、プレドネマ、ステロネマ、リンデロン坐剤、レクタブル
- 対象:中程度~重度
- 効果:炎症を抑える
- 種類:内服薬、点滴薬、注腸薬、坐剤
免疫調節薬または抑制薬
- 代表的な薬:イムラン、アザニン、プログラフ
- 対象:ステロイドの減量・中止で症状が再燃した場合
生物学的製剤(抗TNF-α抗体製剤など)
- 代表的な薬:レミケード、ヒュミラ
- 対象:ステロイド無効時
- 効果:炎症を引き起こす物質の直接抑制
- 種類:点滴、皮下注射
その他
- ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤、抗接着分子抗体製剤、IL-12/23阻害剤
- 大建中湯
- ラックビー、ビオフェルミン、ビオスリー
- ロペラミド(下痢症状の軽減)
症状がなくても自己判断で薬を中止せず、主治医の先生に相談しましょう。
重症例では、入院治療を行う場合もあります。
手術
潰瘍性大腸炎では手術が必要となるケースは少ないですが、薬が効かない場合や症状が重い場合は検討されます。
広範囲の病変がある患者の約30%が手術を要します。
手術が必要なケース
- 内科的治療で改善しない
- 症状の悪化
- 副作用で薬が継続困難
- 大量の出血や腸管穿孔
- 大腸がんの合併
通常、大腸全摘出術を行います。
最近は肛門機能を温存する手術が主流で、術後はほぼ通常の生活を送れます。
潰瘍性大腸炎では継続的な治療が不可欠
潰瘍性大腸炎は長期的な付き合いが必要な慢性疾患ですが、適切な治療と生活管理で症状をコントロールし、通常の日常生活を送ることができます。
定期的な検査や治療を継続し、自身の体調の変化に注意を払いましょう。
ストレス管理や適切な食事、運動を心がけることで、この病気と上手に付き合うことが可能です。
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参考文献
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- 公益財団法人難病医学研究財団 難病情報センター「潰瘍性大腸炎(指定難病97)」
-
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針」
-
- MSDマニュアル家庭版「潰瘍性大腸炎 – 03. 消化器系の病気」