そろそろ花粉が気になり始める時期ですね。全国規模の疫学調査「鼻アレルギーの全国疫学調査2019」によると、花粉によるアレルギー症状に悩まされる人は近年増加傾向にあり、10歳代のスギ花粉症が増加するなど低年齢化も指摘されるようになってきています。
ひどい場合は日常生活に支障をきたしてしまうこともあるので、つらい症状を少しでも緩和させて毎日を快適に過ごせるように、シーズン前から準備を整えておきましょう。
★花粉症とは(メカニズム、症状、種類、飛散時期)
花粉症は、鼻や目から侵入してきた花粉を体が異物と認識し、これを排除しようとして起こる免疫反応です。免疫は体を守ってくれる良いシステムですが、反応が過剰になると体にとってマイナスになるアレルギー症状が起こります。
花粉による主な症状としては主に鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみがあり、植物の種類によっては皮膚の荒れやだるさなどが生じることもあります。患者数の増加や重症化の要因としては花粉の飛散量の増加のほかに、食生活の変化、空気中の汚染物質、喫煙、ストレスなどが考えられています。
花粉症が報告されている植物には、スギ、ヒノキ、ハンノキ、シラカンバ、イネ、ブタクサなどがあります。これらは地域によって飛散時期や期間、飛散量に多少の違いがみられますが、全国的に広範囲で分布されているのがスギやヒノキで、花粉症の代表的な原因植物として知られています。
スギやヒノキは気候の違いにより早ければ九州で1月下旬から、東北では3月上旬あたりから飛散量の増加がみられるようになります。
★シーズン前にしておけること
病気やウイルス感染と同じく、花粉症もつらい症状が出る前から備えておくことが大切です。
<まずは情報収集>早いうちから花粉の予測情報をチェックしておきましょう。
花粉は毎年の気象条件によって飛散量に違いがみられます。前年夏に気温が高く日照り時間が多いと花芽が多くできるため、翌年春の花粉飛散量が多くなるとされています。
また、前述のように地域や花粉の種類によってもピークが異なります。全国的な飛散量だけでなく、ご自身の住んでいる地域ではどのような傾向が予想できるか確認しておくといいでしょう。
・花粉情報アプリ
今はスマートフォンで使える花粉情報アプリが豊富にあります。カレンダーやグラフでわかりやすく示されていたり、飛散量だけでなく地域ごとの天気や気温、風速や風向などの情報も得られたりするのでとても便利です。
GPS機能が連動されているものだと、お住まいの地域だけでなく外出先の情報もすぐに反映されるので、移動や出張が多い方におすすめです。
花粉症のシーズンに入ると毎朝のニュースや新聞でも取り上げられるようになりますが、早めの事前対策として、ご自身の状況や好みに合ったアプリを選んでおけるといいですね。
<生活時間や服装を整えて予防>・外出スケジュールは時間帯を考慮して
花粉の飛散状況は気候によって変わるものですが、数週間先の天気や風の強さまで考えながら先のスケジュールを組むのは困難です。
その場合、飛散量は1日の時間帯によっても変動がみられるので、飛散が多くなる時間帯を避けて外出するように意識することで予防につながります。飛散量の時間帯のピークは1日2回あり、朝に森林から出た花粉が都市部に飛散してくる「昼過ぎ」、そして気温の低下により上空を舞っていた花粉が下りてくる「夕方」です。
また、「モーニングアタック」といって自律神経のバランスなどによって朝方に症状が出やすくなる場合もあります。
外出予定は飛散量がいったん落ち着く午後あたりに外を移動するように考えたり、ランニングなど外で運動する場合は夜間を選ぶなど、うまく工夫しながら日々のスケジュールを決められるといいですね。
・花粉が付きにくいファッション
衣類の素材によって花粉の付着量に違いがありますので、外出する際の服装に気を使っておくことも大切です。
ウールは繊維に花粉が絡まりやすく、綿の約10倍も花粉の付着率が高いという特徴があります。温かいので冬~春先にかけて活用したい素材ですが、外出時のアウターとしては避けた方が望ましいでしょう。
おすすめなのは、ナイロンや皮などツルツルとした素材の製品です。拭き取ったり払ったりして除くことも簡単です。帽子やバッグなどもこのような素材で揃えておけば、花粉を避ける対策としてバッチリですね。
<受診も早めに>専門医は、すでに毎年お悩みの方はシーズン前から受診しておくことを推奨しています。
医療機関での治療も早期に始めておくことで症状の緩和に効果的で、重症化も防げるとされています。また、シーズンに入ると医療機関や薬局は混み合います。待ち時間のストレスや密集を防ぐためにも、早めのタイミングで受診の予定を考えておきましょう。
★シーズン中のセルフケア
花粉症の症状を予防・緩和させる対策としては、何より花粉との接触を極力減らすこと、そして付着したものを除くことです。
<マスク、メガネ>
新型コロナウィルスの流行によって外出時はマスクをする生活様式が一般的となりました。マスクは吸い込む花粉の量をカットできるため、鼻粘膜への付着を防ぐ高い効果が期待できます。より侵入を避けるためには、なるべく隙間のできないフィット感のあるマスクを選ぶことをおすすめします。
目の対策としては防御カバーのついた花粉症用メガネがあります。2000~3000円で購入できるものが多く、曇り止め仕様のもの、自転車やスポーツ用、キッズ用など幅広く販売されています。
<手洗い、うがい>
手洗いやうがいは花粉を洗い流す意味でも大切な習慣ですね。できれば洗顔もして顔周りについた花粉も落とせるといいでしょう。目の周りはまつ毛にも花粉が付着します。鼻の中をきれいにする鼻うがいは食塩0.9%濃度の生理食塩水を人肌程度に温めて使用すると、粘膜を傷つけずに洗浄できます。
<室内環境>
花粉を室内に持ち込まないことも意識しておきたいですね。帰宅時は玄関で衣服や髪に付いた花粉を落としてから入室しましょう。リビングや寝室に入る前に着替えたり、人の出入りが多い場所に空気清浄機を置いたりするのも効果的です。
また、飛散の多い時期は洗濯物や布団は外に干さない、床やカーペットの掃除を励行するなど、花粉を避ける最大限の心がけを生活に取り入れていきましょう。
★予防・ケアは内側からも
近年日本では食生活における動物性脂質の摂取過多や、肥満などの生活習慣病が問題視されています。花粉によるアレルギー症状を抑え健康な体でいるためにも、食事や睡眠などを乱さず規則正しい生活習慣を整え、免疫機能を保っておくことが重要です。
アルコールには血管を拡張させる作用があり鼻づまりや目の充血を悪化させてしまうことが予測されるので、花粉症シーズンは飲み過ぎにも気をつけておきたいですね。
<食事時間がアレルギー症状に与える影響>食事摂取のタイミングがアレルギー症状に強く影響するという動物実験の結果が、2019年に山梨大学から報告されました。
花粉症におけるモーニングアタックのように、アレルギー症状は特定の時間帯に出現しやすいという特徴があります。このような現象から「体内時計がアレルギー反応を調節している」と考え実験をおこなったところ、夜食など不規則な時間帯での食事が体内時計のリズムを乱し、規則的な食事時間の時よりアレルギー反応の出方に影響したという結果が示されました。
夜遅い時間の食事摂取は肥満や生活習慣病を招く要因とされています。今後は花粉によるアレルギー症状を緩和するという新たな可能性も期待して、食事の摂取タイミングを見直すことも改善策として考えてみるのもいいですね。
花粉症は生死にかかわる病気ではありませんが、場合によっては生活の質を下げたり大きなストレスが伴ったりもする大変なものです。正しい知識、早めの準備、セルフケア、そして広がりつつあるオンライン診療やオンライン薬局もうまく活用しながら上手に向き合っていきましょう。
参考文献
-
- 「とどくすり」花粉症疾患啓発記事/耳鼻咽喉科山西クリニックの山西敏郎院長先生
-
- 鼻アレルギーの全国疫学調査2019 (1998年,2008年との比較): 速報 ―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として―. 日耳鼻 2020;123:485-490.
-
- 環境省 花粉症環境保健マニュアル2019
-
- 鼻アレルギー診療ガイドライン2020版ダイジェスト
-
- アレルギー性鼻炎と生活習慣:アレルギー 64(7):911-917,2015
-
- 山梨大学プレスリリース「食事の時間がアレルギーに強く影響する」 ―食事の時間を見直すことによりアレルギー症状の改善が期待―2019.10.25