「疲れやすさやむくみ、寒がりが続いている」「健診でTSHや抗体の異常を指摘された」「家族に甲状腺の病気の方がいて心配になった」
橋本病を調べ始めるきっかけは人それぞれでしょう。橋本病は、正式には「慢性甲状腺炎」と呼ばれる甲状腺の病気です。「診断されたら一生薬」というイメージを持たれがちですが、実際にどう治療が進むかは検査の結果によって変わります。
この記事では、橋本病に関係するTSHや抗TPO抗体といった言葉の意味を補足しながら、症状の特徴、検査でわかること、治療が始まる目安、食事や妊娠・妊活で気をつけたい点までを整理します。
この記事の要約
- 橋本病は免疫が自分の甲状腺を攻撃し、炎症が続く自己免疫の病気
- 疲れやすさやむくみは診断の手がかりになるが、症状だけでは確定できない
- 診断は抗TPO抗体などの血液検査と超音波検査で確かめる
- 甲状腺の働きが保たれていれば、薬を使わず経過を見る方が多い
- 機能が低下した場合は不足分を薬で補い、自己判断での中断は避ける

橋本病とは?慢性甲状腺炎について

橋本病は、のどぼとけの下にある甲状腺に慢性の炎症が続く自己免疫の病気で、正式には「慢性甲状腺炎」と呼ばれます。
病気の成り立ちと、見つかりやすい方、診断後の状態を順にみていきましょう。
免疫が自分の甲状腺を攻撃する病気
橋本病は、外敵と戦うはずの免疫が自分の甲状腺を誤って攻撃する、自己免疫性の甲状腺炎です。
日本甲状腺学会の診断ガイドラインでは、甲状腺の組織にリンパ球が入り込み、炎症や線維化が起こる状態として定義されています。炎症が長く続くと甲状腺ホルモンを作る力がゆるやかに落ちていくこともあり、症状の進み方には大きな個人差が見られます。
人にうつる病気でも、生活態度が原因で起こる病気でもありません。
30〜40代の女性に多く見つかると言われる
橋本病は女性に多く、男女比は約1対20〜30、発症は30〜40代に目立つと言われています。見つかるきっかけは健診の血液検査、首のはれ、家族の甲状腺疾患をきっかけにした受診などさまざまです。
ただし、男性や高齢の方に起こらないわけではないため、年齢や性別だけで安心してしまうのは推奨しません。気になる症状が続くようなら、まず主治医に相談しましょう。
診断されても重症とは限らない
橋本病と診断されても、甲状腺の働きそのものは保たれている方が多いと言われます。
日本甲状腺学会は、慢性甲状腺炎のうち甲状腺機能低下症になるのは約1割としています。抗体が陽性という結果は炎症が起きていることを示す所見であり、今すぐ治療が要るという意味とは異なることもあります。
バセドウ病との違い
「バセドウ病」も橋本病と同じで甲状腺に自己免疫反応が起こる病気ですが、橋本病とは逆に甲状腺機能が過剰に高まる病気です。甲状腺ホルモンが必要以上に分泌されて、体中の機能が働き過ぎの状態になります。
バセドウ病は「目が飛び出す」「まぶたの腫れや吊り上がり」など目元に特徴的な変化があらわれると言われています。一方、橋本病はまぶたや唇など顔全体にむくみが起こることがあり、腫れぼったい顔つきになるとされます。
その不調は橋本病のサイン?主な症状

橋本病は甲状腺が慢性的に炎症をおこしている状態です。
はじめのうちは自覚症状に乏しいことが多いですが、症状が進むと多くの方が甲状腺機能低下症が要因の症状を自覚します。ただし、他の原因でも同じ症状が出ることもあるため、気になる症状がある場合は医師に相談しましょう。
初期症状
強いストレスや妊娠などがきっかけとなって甲状腺機能低下症が引き起こされると、以下のように心身にさまざまな症状があらわれます。
- のどの違和感
- 疲労感や眠気
- 無気力
- 冷え性
- こむら返り
- 便秘
- 月経不順、月経過多
- うつ病、物忘れ
その他の主な症状
橋本病の甲状腺機能低下が現れると、代謝が低下して見た目にも影響してきます。急に老けた印象を受けることもあるでしょう。
- 体重が増えやすくなる
- 皮膚の乾燥
- 抜け毛の増加
- 起床時の顔のむくみ
- 首の腫脹やしこり
一般的なむくみは指で押すとへこんだまま戻りませんが、橋本病はへこみが元に戻りやすいのが特徴とされます。
甲状腺が腫れると首のあたりが膨れて見えるようになり、触るとゴムのような柔らかい感触があります。
橋本病の検査でわかること
橋本病の診断は、血液検査と超音波検査の組み合わせで進むのが一般的です。
橋本病には遺伝的な影響もありますので、家族に甲状腺疾患の方がいる場合は、自覚症状がなくても1度は検査を受けてみましょう。
血液検査でTSHとFT4の値がわかる

甲状腺の働きは、TSH(甲状腺刺激ホルモン)と遊離T4という2つの数値で判断します。日本甲状腺学会の「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」では、無気力・易疲労感・寒がり・体重増加などの臨床所見に加え、遊離T4が低くTSHが高いという検査所見がそろった場合に原発性甲状腺機能低下症と診断されます。
TSHは甲状腺に「もっと働くように」と指示するホルモンで、甲状腺の力が落ちるほど数値が高くなります。遊離T4が基準内でTSHだけが高い状態は潜在性甲状腺機能低下症と呼ばれ、経過観察になるケースと治療を始めるケースに分かれます。
抗TPO抗体で自己免疫の有無がわかる
橋本病の診断で判断材料になるのは、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)や抗サイログロブリン抗体(TgAb)といった自己抗体の検査です。日本甲状腺学会の診断基準では、びまん性の甲状腺腫大に加えてこれらの抗体が陽性であれば、慢性甲状腺炎(橋本病)と診断されます。
抗体が陽性でも甲状腺ホルモンが正常な方は多いとされるため、陽性という結果がそのまま治療開始を意味するとも限りません。
超音波で甲状腺のはれ具合がわかる
超音波検査では、甲状腺の大きさや形、内部の状態を痛みなく確認できます。橋本病では、甲状腺が全体的にはれるびまん性腫大や、内部エコーの低下・不均質といった所見がみられます。しこりが見つかった場合、他の甲状腺疾患と見分けるために追加の検査が行われることもあります。
まれではあるものの、甲状腺リンパ腫が橋本病を背景に発生することが知られていますので、急に大きくなった腫れがあれば早めに主治医に相談しましょう。
参考:
日本乳腺甲状腺超音波医学会「乳腺甲状腺超音波医学 Vol.12 No.1(慢性甲状腺炎(橋本病)の超音波所見)」
橋本病の治療方法
橋本病の治療は、炎症そのものを取り除くのではなく、足りなくなった甲状腺ホルモンを補うことが中心になります。甲状腺の働きが保たれているうちは薬を使わず、定期的な血液検査で数値の変化を追う経過観察が基本です。
遊離T4が低くTSHが高い明らかな機能低下では、レボチロキシン製剤(チラーヂンSなど)で不足分を毎日補い、検査結果を見ながら少しずつ量を調整していきます。遊離T4が基準内でTSHだけが高い潜在性の段階でも、症状が強い場合や妊娠を希望する場合には治療が検討されます。首のはれが大きく、のどや気管を圧迫するようなケースでは手術が選ばれることもありますが、手術での対応は限られた状況であることが多いです。
体調が良くなったからと自己判断で薬をやめると症状が戻りやすいため、量の変更や中断については主治医に相談しましょう。
参考:妊娠と橋本病|東京・世田谷での出産・分娩なら国立成育医療研究センター産科
橋本病の治療が必要なのはどんな方?

治療が始まるかどうかは、抗体の有無ではなく甲状腺ホルモンが足りているかで検討されます。
約7割は薬を使わず経過を見る方
橋本病と診断された方の多くは、甲状腺ホルモンが保たれているため、治療を始めないケースが一般的です。
伊藤病院は、橋本病のうち甲状腺機能が正常な人が約70%、軽度の低下が約20%、明らかな低下が約10%と説明しています。経過観察とは病気を放置するのではなく、定期的な血液検査で数値の変化を確認する期間を指します。
機能が低下したら薬で補う必要がある方
遊離T4が低くTSHが高い明らかな機能低下では、不足している甲状腺ホルモンを薬で補う治療が選ばれます。目的は炎症そのものを消すことではなく、体に必要なホルモン量を整えることです。
潜在性の段階でも、症状が強い場合や妊娠を希望している場合には、治療が検討されることもあります。
年2〜5%は将来治療が必要になる方
甲状腺機能が正常な橋本病でも、時間の経過とともに機能低下へ進むことがあります。
日本内分泌学会によると、自己抗体が陽性の潜在性甲状腺機能低下症では、1年に約4.3%の方が顕性(明らかな)甲状腺機能低下症へ移行するとされています。抗体が陰性の場合(年約2.6%)より高い頻度であり、定期検査が重視される根拠のひとつです。
薬が不要な段階でも検査を続けたほうがよいと言われる理由は、こうした変化の可能性があるためです。半年から1年ごとの血液検査で変化を早めに把握できれば、症状が重くなる前に対応しやすくなるでしょう。
参考:
橋本病・甲状腺機能低下症 | 岡本甲状腺クリニック・天満橋甲状腺クリニック|大阪市の甲状腺専門
橋本病の方が日常生活で気をつけたいこと

橋本病では、食事や運動に厳しい制限が求められるケースは基本的に少ないですが、ヨウ素のとりすぎには注意が必要です。
生活のなかで意識しておきたい点を整理します。
昆布やヨウ素のとりすぎに気をつける
昆布のようにヨウ素を多く含む食品を毎日多量にとり続けると、甲状腺がはれたり働きが低下したりするケースがあります。
伊藤病院は、橋本病でヨウ素の過剰摂取が影響した場合でも、摂取をやめれば元に戻ると説明しています。通常の和食の範囲まで過度に避ける必要はなく、注意したいのは昆布だしの常用や根昆布水のような習慣でしょう。
機能が正常なら過度な制限はいらない
甲状腺の働きが保たれていれば、運動や旅行、仕事もこれまでどおり続けられます。橋本病そのものが日常生活を大きく制限する病気とは限らないため、定期的な検査で変化を把握しておくのが大切です。
機能低下が出ている時期には疲れやすさや眠気が強まるため、無理のない範囲に予定を調整するなど工夫しましょう。活動量について不安がある場合は、遠慮なく主治医に相談しましょう。
サプリは使う前に主治医へ相談すること
ヨウ素入りのサプリメントやうがい薬は、気づかないうちに摂取量を増やす要因になり得ます。健康に良さそうという理由で始めた習慣が、かえって甲状腺の働きを低下させるケースも存在します。
レントゲン検査の造影剤や一部の消毒薬にもヨウ素が使われているため、他科を受診するときは橋本病であると伝えておくと安心です。
橋本病の方が妊娠を望むときに大切なこと
橋本病があっても妊娠や出産は可能とされていますが、甲状腺ホルモンの状態は妊娠前から整えておくのが求められます。
妊娠前、妊娠中、産後で意識しておきたい点は変わります。
参考:妊娠と橋本病|東京・世田谷での出産・分娩なら国立成育医療研究センター産科
妊娠前にTSHの値を整えておく
妊娠を考え始めた段階で甲状腺の状態を確認しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
妊娠初期の赤ちゃんは自分で甲状腺ホルモンを作れず、母体のホルモンに頼る時期です。通院中の方は、妊娠を希望していることを早めに主治医に相談しましょう。まだ受診していない場合も、健診での指摘や家族歴があるようであれば、妊活の前に検査を受けておくと、その後の判断を進めやすくなります。
妊娠中も自己判断で薬をやめない
妊娠中に甲状腺ホルモン薬を自己判断で中止すると、母体にも赤ちゃんにも望ましくない影響が及ぶおそれがあります。妊娠すると必要なホルモン量が増えるため、減量ではなく増量の調整が行われる場合もあります。
お薬手帳や検査結果を持参しておくと、産科と甲状腺の主治医の間で情報を共有しやすくなります。
産後も定期的な通院と検査を続けること
出産後は甲状腺の働きが乱れやすく、数か月してから無痛性甲状腺炎が起こる場合もあります。
日本甲状腺学会の診断ガイドラインにも、無痛性甲状腺炎は出産後数か月でしばしば発症すると記載されています。動悸や強い疲れ、体重の急な変化を育児疲れとして見過ごすと、必要な検査が遅れるおそれがあります。産後の受診間隔についても、主治医と相談するのが望ましいでしょう。
まとめ
橋本病は、免疫が自分の甲状腺を攻撃して炎症が続く自己免疫の病気で、正式には慢性甲状腺炎と呼ばれます。
疲れやすさやむくみ、寒がりといった変化は手がかりになりますが、症状だけでは判断できないため、TSHや遊離T4、抗TPO抗体などの血液検査と超音波検査で検査を進めます。抗体が陽性でも甲状腺の働きが保たれている方は多く、その場合は薬を使わず定期的な検査で変化を追うのが基本です。明らかな機能低下がある場合は不足分をホルモン剤で補い、体調が良くなっても自己判断で中断しないことが大切です。
昆布などヨウ素のとりすぎには気をつけ、妊娠を望むときは早めに主治医へ相談しましょう。気になる点は次の診察で確認できるよう、メモにまとめておくと安心です。
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橋本病と診断された方は、甲状腺ホルモン剤を長く飲み続けることもあるでしょう。そうなると、通院と薬局通いの必要性も増えます。
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