くしゃみや鼻水がとまらない花粉症治療のニューノーマルとは? 代表的な症状と対策、オンライン診療が持つ可能性

耳鼻咽喉科山西クリニック

いまや国民病として知られる花粉症。花粉自体は一年を通じて飛散しています。特に年明けから初夏にかけては、植物が花粉を一斉に放出するいわば花粉症シーズンです。そのためこの時期になると、花粉が体内に入ったことで出現する諸症状に多くの方が悩まされています。

ところで、オンライン診療とオンライン薬局を導入する医療機関が増えたことで、花粉症の診療に変化が訪れていることをご存知でしょうか?

花粉症の症状や検査、治療を受けるタイミングや、家庭でできる花粉症対策について、加えて、オンライン診療の将来性について、耳鼻咽喉科山西クリニックの山西敏朗院長先生に伺いました。

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花粉症の症状はくしゃみや鼻水だけでなく倦怠感など全身に及ぶものも

患者さんがよく訴える症状に、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみがあります。これらは花粉症の四大症状といえるでしょう。しかし、症状のバリエーションは、これだけにとどまりません。皮膚(体)がかゆい、咳が止まらない、喉にイガイガやヒリヒリするといった刺激を感じる、手の届かないような耳の奥のかゆみなども、診療時よく聞く症状です。また、スギ花粉症の方の中には、倦怠感やなんとなくやる気が出ないという症状を訴えるケースもあります。

このように、一言で「花粉症」と言っても、四大症状にとどまらず、患者さんの感じる症状が多岐にわたっていることも、この病気の特徴と言えるでしょう。

花粉症であることを正しく診断するために、症状があれば医療機関の受診を

花粉症の症状を訴える患者さんが医療機関を受診した場合、問診で症状について詳しく聞いたのちに診察を行い、場合によっては血液検査を実施します。

まず問診では、いつ頃からどのような症状が出てきたのか、それとも症状は一年中出ているのか、現在は特にどのような事で困っているのかを伺います。次に診察では、患者さんの鼻の中を覗いて鼻粘膜の色味や腫れ具合をチェックします。この時、鼻水は透明でサラサラしているか、それとも黄色く粘ついているのかなども一緒に確認します。鼻水に色が付いてネバネバした状態だと花粉症以外の病気も考える判断となりうることから、鼻水の状態は診断をするうえで重要な情報源といえるでしょう。

問診と診察から花粉症が疑われる場合は、血液検査を実施します。患者さんが何に対してアレルギー反応を起こしているのか明らかにするためです。現在では、一回の血液検査で39項目のアレルギー原因物質を保険適応で調べることが可能になりましたので、花粉以外の項目も一緒に検査してみてはどうでしょう。

症状を正しく把握し、適切な治療を行うために、花粉症が心配な方は医療機関を受診することをお勧めします。

花粉症は放置すると他の病気を発症するきっかけになり

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花粉症がきっかけで、他の体調不良を招くこともあります。例えば、鼻詰まりが続き口呼吸の習慣化により、いびきや睡眠時無呼吸症候群などを併発する患者さんも珍しくありません。また、花粉症と知りつつ我慢していると、症状が悪化して副鼻腔炎を併発してしまうこともあります。このような患者さんには、花粉症の治療と並行して必要な治療をしないといけません。

ところで、「思い込み花粉症」というものをご存知でしょうか? 患者さんが、時期と症状からおそらく花粉症でスギやヒノキのようなメジャーな植物の花粉に反応しているのだろうと自己判断し、ドラッグストアで一般用医薬品(市販薬)を購入し対処している状態のことです。

思い込み花粉症の患者さんの診察や検査をしてみると、ご自身が思い込んでいた花粉と異なる、カモガヤやブタクサなどの他の植物が原因の場合があります。また、ハウスダストやカビ、ペット、食品など、花粉以外の要素に反応していたことが判明することも、決して珍しいことではありません。

このように、一言で花粉症と言っても、症状や必要な治療は患者さんそれぞれです。正しい診断をして適切な治療につなげるためにも、花粉症を疑う症状が出ているなら自己判断はせず、医療機関を受診し医師の診断を受けるようにしましょう。

花粉症の治療は花粉症シーズン突入前に開始するのがベター

花粉症シーズン

気になるのが医療機関を受診するタイミングではないでしょうか? 花粉症に悩まされている患者さんを診る医師として、2つの理由から花粉症シーズンが到来する前に医療機関を受診されることをお勧めしています。

1つ目の理由は、早期の治療開始が症状の緩和に効果的ということです。花粉が本格的に飛散する前、あるいは、少しでも症状が出現した時点で治療を開始すると、それ以降に治療開始するよりも症状の重症化を防げることが知られています。

2つ目の理由は、医療機関の待ち時間が短いことです。花粉症シーズンは医療機関と調剤薬局の双方が混み合い、通常時よりも患者さんをお待たせしてしまうものです。診療からお薬のお渡しまでがスムーズであるほど、患者さんにとって苦痛な期間を短縮できますし、特に昨今は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナウイルス)対策で室内の密集を避ける観点からも、シーズン前の受診をご提案します。

東京23区では、花粉は1月下旬から飛散し始め、2月中旬のちょうどバレンタイン前後になると一気に量が増えます。そのため、重症の花粉症の患者さんなら、花粉が飛び始める1月下旬には、医療機関を受診すると良いでしょう。

ただ近年、地球温暖化の影響から、花粉の飛散開始時期が早まったり飛散量が多くなったりする可能性も考えられます。そうなると、花粉症の諸症状が出始める時期が前倒しになることもありえるでしょう。ですから、「まだ花粉症のシーズンではないから大丈夫」と考えるのではなく、「この症状は花粉症かもしれない」と感じたら、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。

日常生活にプラスアルファしたい花粉症対策


花粉症の症状をなるべく出さないようにするには、とにかく花粉との接点を極力減らし規則正しい生活習慣を身に付けることが肝要です。

例えば、花粉シーズンの天気予報で、花粉飛散量を確認しながら、飛散量が特に多い日はなるべく外出しない、ランニングなどで外出する際は花粉の飛散が少ない早朝や夜間を選ぶなど、花粉自体に接しないよう工夫しましょう。

帰宅後は、玄関にあがる前に服をはたき、衣類に着いた花粉を屋内に持ち込まないようにします。手洗いとうがいも欠かさず行います。鼻うがいをするなら、人肌程度に温めた生理食塩水を使用しましょう。

室内で過ごす時は、加湿器や空気清浄機を稼働して空気中を花粉が飛ばないようにします。換気しようと窓を開けると屋外の花粉も室内に入ってきてしまいます。かといって新型コロナ対策もしなければいけません。花粉症の症状が出ている時の換気はなるべく夜間にしましょう。

衣類は、セーターのように毛足の長くて花粉をキャッチしやすい物は避けて、ナイロン素材などツルツルした物や、静電気を起こしにくい繊維を使用している物を選ぶことをお勧めします。目元を保護するため、ゴーグルを着用するのもよろしいかと思います。

規則正しい生活を送り、疲労やストレスを溜め込まないことも意識していただきたいポイントです。栄養バランスのとれた食事を摂り、睡眠時間は毎日一定以上確保し、自分なりのストレス解消方法を見つけるようにしましょう。

花粉症治療は生活様式の変化を反映した診療体制へ進化しつつある

オンライン診療

2020年初頭から続く新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、心身の不調や持病治療などのために医療機関を受診したくても、新型コロナウイルスへの感染を恐れて医療機関を受診しない「受診控え」が問題視されています。

これを受けて、患者さんは任意の場所で、スマホやパソコン、電話などのデバイス越しに医師の診療を受けるオンライン診療と、医師が処方したお薬を自宅にいながら受け取れるオンライン薬局の導入が進みました(0410事務連絡)。この一連の流れは、従来の診療体制のあり方に一石を投じた大きな出来事と言えるでしょう。

花粉症の治療も、オンライン診療とオンライン薬局の活用が期待される分野です。

初診は来院いただき、症状などの確認や検査を行い診断します。処方したお薬を服薬いただき、症状の緩和に効果が現れ、副作用などの問題がなければ、2回目以降の受診は、オンライン診療でも対応可能な場合があります。

働きざかり世代の患者さんでは、仕事を休んだり中抜けしたりして医療機関を受診するのが難しく、ましてや花粉症シーズンは医療機関も薬局も混み合うことから、症状が辛くても受診せず市販薬に頼るケースも散見されます。

「花粉症の症状がひどくて夜も眠れない」「市販薬を使っても良くならない」「花粉症シーズンはとにかく時間がかかる」

病気とともにこうした悩みを抱える方たちにとって、任意の日時に診療を受けられるオンライン診療と、必要なお薬を自宅で受け取れるオンライン薬局は、新たな選択肢となりうるのです。社会と患者さんから寄せられるニーズに応えるには、医師ならびに医療機関が従来から続く方法にとらわれることなく、時代に即した医療提供体制の構築と改善をしていかなくてはなりません。

一方で、直接対面下での診療とオンライン診療をどのように線引きするのかなど、今後積極的な議論が求められる課題もあります。

いずれにしても、従来通りの「医師が診察室で患者さんを待つ時代」はやがて終わりを迎え、テクノロジーの進化や生活様式の新常態「ニューノーマル」によって様々に変化していくのではないかと感じています。

プロフィール

山西敏朗(やまにし としろう)/耳鼻咽喉科山西クリニック院長

日本大学医学部卒業。医学博士、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本気管食道科学会認定専門医、補聴器相談医

東京大学医学部付属病院、社会保険中央総合病院(現東京山の手メデイカルセンター)、国立霞ヶ浦病院(現国立病院機構霞ヶ浦医療センター)、東京医科大学病院、厚生中央病院、板橋中央総合病院耳鼻咽喉科部長などを経て、2007年1月「耳鼻咽喉科 山西クリニック」開設。

患者自身のQOL向上のため最新の正しい医療知識を、メディアを通じて発信。日本全体の医療リテラシー向上に貢献。近年では、有名な医療系ドラマの医療監修なども行い、専門医の知見と技術を惜しみなく提供している。

著書の紹介

花粉症の長期戦略と短期療法

出版社:小学館
発売日:2005年2月1日
ページ:215ページ

花粉症の長期戦略と短期療

出版社:小学館
発売日:2005年2月1日
ページ:215ページ

参考文献