新型コロナウイルス回復後も続く「コロナ後遺症」とは?症状と対策、周囲の理解について

渋谷ヒラハタクリニック

コロナ陽性患者数や、救急車でのたらいまわし、在宅での患者放置など、インパクトの強い情報は連日、報道を通じて発信されています。その陰で、新型コロナウイルスから回復したにもかかわらず、「後遺症」に悩まされる患者さんが数多くいます。20代~30代の比較的若い世代でも発症する割合が高いなど、全世代で認められるロングコビット(LongCOVID)と言われる「コロナ後遺症」。

東京iCDCのコロナ後遺症タスクフォースのメンバーで、渋谷ヒラハタクリニックの理事長兼院長の平畑光一先生へ、コロナ後遺症の実態を伺いました。

コロナ後遺症は『早期治療』が効果的。症状の理解と適切な治療継続が大切

渋谷ヒラハタクリニック

コロナ後遺症が疑われる症状は、嗅覚・味覚障害や微熱・発熱、呼吸異常、咳、倦怠感や思考力・集中力の低下など多岐にわたります。そして、この症状の一部は、新型コロナウイルスの療養から回復した患者さんの社会生活、特に「職を失うこと」に直結するような症状です。

例えば、嗅覚や味覚の障害は、飲食に携わる方々にとって、致命的ともいえる症状ですし、倦怠感は、ベッドから起き上がれないほど症状が悪化することもあり、仕事をしたくとも、職場へ行くことはもちろん、たとえリモートワークだとしても、パソコンの前に座ることさえ難しくなってしまいます。

また、「ブレーンフォグ」と言われる思考力や集中力の低下は、仕事のみならず日常生活にも影響を及ぼします。

このような症状が長引けば、仕事をスムーズに遂行できず、休職や退職へ追い込まれてしまうことも想定され、実際にそのような患者さんの声を聞くこともあります。

日常生活で「だるくなることをしない」ことで、症状の軽減や回復が見込める

渋谷ヒラハタクリニック

当院は、コロナ後遺症の患者さんが、直接の来院やオンライン診療で数多く受診しています。各種論文・調査結果や、クラスターを起こした施設から当院を受診される患者さんの数などを見ると、新型コロナウイルにかかった患者さんのうち、約50%が何らかの後遺症を発症し、約10%が重い症状に悩まされていると思われます。

長い方で1年半近くコロナ後遺症の療養を続けている方もいますが、早期に適切な治療を開始した方は、治療の早い段階から症状の軽減がみられ、症状が治まったという方も多くいます。

一方で、症状が軽いから、症状が出ていないからといって、仕事やプライベートで頑張ってしまったとか、お酒など不摂生を重ねたとか、そういうことをすると、ぶり返したり、症状が重くなったりすることがみられます。

また、新型コロナウイルスから回復した1年後、「ゴルフに行ってちょっと無理をしたら後遺症を発症した」という例もあり、いつ、どこで、コロナ後遺症を発症するのか、コロナ後遺症は、解明されてないことが多い非常に厄介な病気です。

コロナの後遺症の特徴は「日常生活で無理をすると症状が悪化する」ということです。当院では患者さんに「だるくなることをしない」という対処法が大切であることをお伝えしています。

できるだけ早く適切な治療を始めるために、周囲の理解がとても重要な「コロナ後遺症」

渋谷ヒラハタクリニック

コロナ後遺症は「検査で異常が出にくい」ということも大きな特徴です。医療機関では、患者さんの症状に沿って、様々な検査を行いますが、異常が出ないことがほとんどです。

そして多くの医療機関では、検査結果に異常がなければ、ともすると「気のせい」や「精神的な疾患」としてしまいがちです。しかし、コロナ後遺症に精通している医師であれば「だるくなることをしない」と指導をし、適切な治療を早期に開始することができます。

不幸なのは、体調がとても悪いのに、気のせいと言われ治療をされない状態が続いたり、おそらく精神疾患であろうと間違った治療が始まったり、患者さんはとても厳しい状況に置かれてしまいます。

検査結果に異常が認められないからといって、患者さんの症状を軽視することは、その後の療養に大きく影響を与えてしまうのです。

一方、職場では、倦怠感や「ブレーンフォグ」と言われる思考力や集中力の低下を、「気合や根性が足りない」や「怠けている」と捉えられがちです。患者さん本人も周囲のプレッシャーから、体調が悪いのに無理をして症状が悪化し、結果、休職や退職に追い込まれる。これはもはや『人災』と言わざるを得ない状況です。

先ほどもお話ししましたが、コロナ後遺症は「だるくなることをしない」がとても大切です。

医療人はもちろん、職場や家族も、コロナ後遺症の症状を軽視せず、これ以上悪化しないように、患者さんをしっかり支えていくことが肝要です。

社会経済を蝕む「コロナ後遺症」。「情報発信」「医療人と患者と周囲の理解」を広めることが肝要

東京都

当院のある東京都は、感染症に関する政策立案、危機管理、調査・分析、情報収集・発信など、効果的な感染症対策を一体的に担う常設の司令塔として「東京iCDC」を組織しています。私はコロナ後遺症のタスクフォースのメンバーなのですが、コロナ後遺症への理解が進んでいる自治体のひとつである東京都でさえ、情報発信が少ないと感じています。

例えば、米国疾病管理予防センター(CDC)では、検査で異常がなくても患者さんの訴えを軽く見てはいけない、という指針が出されています。また、英国国家統計局(ONS)は、コロナ陽性者の10人に1人が後遺症を発症しているというデータも発信されており、WHOも同様の情報を発信しています。

日本ではコロナ後遺症の理解が、国民はもちろん、医療界にも広がっているとは言えず、「コロナ後遺症後進国」と言わざるを得ない状況です。

いま日本は、報道も国民の関心も、コロナの新規陽性患者に注がれています。もちろん、命を救うというミッションなのでとても重要です。

しかしその陰で「新規のコロナ後遺症」が続々と発症していることも事実で、数万人ともいわれるコロナ後遺症の患者さんが放っておかれているのではないかと思います。

「仕事ができない症状」が広がるということは、労働人口が減り、療養者が増えるということです。労働生産性が下がり、療養者に対する行政支援や介護負担が増加し、日本の社会経済に深刻な影響を及ぼす可能性も否定できません。

もっと多くの医療機関が連携して「コロナ後遺症」に対処していくことが求められています。

災害といっても過言ではない新型コロナウイルスのパンデミック。私たちはどうすればよいのか?

渋谷

新型コロナウイルスは、近い将来、ワクチン接種の広がりや、おそらく内服薬なども出てくるので、徐々に収束していくと思います。しかし、新型コロナウイルスを今ほど恐れなくなる日が来たとき、コロナ後遺症への対処がいまのままだと、何十万人の働けない人たちが量産されている可能性が高いと感じます。

そうならないように、今だからこそ対処すべきことがあります。

医師は「気のせい」や「精神的な疾患」と安易に診断せず、「だるくなることをしない」という指導と、適切な対症療法を施すことであり、社会は「根性が足りない」や「怠けている」という感覚を捨て、コロナ後遺症の患者さんを理解すること。最低限、これだけでも日本社会に広がれば、何十万人のコロナ後遺症患者が、症状が悪化せずに済み、いずれまた働く現場に戻ってくることができると思います。

日本の医療提供体制はコロナ禍で変化しています。新型コロナウイルスの治療対策では、オンライン診療やオンライン薬局が可能になり、外出しなくても、診察が受けられ、薬を自宅や療養施設で受け取れるようになりました。新型コロナウイルスの新規陽性でも後遺症でも、初診でも再診でも、どちらでも利用することができます。

「コロナ陽性になった」「自宅療養になった」「症状が重く動けなくなった」

どうすることもできないとあきらめる前に、オンライン診療やオンライン薬局を利用することもひとつの選択肢です。コロナ禍は災害に似ています。日頃からこのような医療サービスに登録したり利用したりすることで、万一感染しても、落ち着いて対処できると思います。

コロナ後遺症への理解と日ごろからの対策で、慌てることなく落ち着いて療養に向き合い、安心して社会復帰できる日本になってほしいと思います。

東京都福祉保健局/新型コロナウイルス感染症 後遺症リーフレット

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/soudan/longcovid_leaflet.html

プロフィール

平畑光一/渋谷ヒラハタクリニック 理事長兼院長

山形大学医学部卒業。
東邦大学大橋病院消化器内科で大腸カメラ挿入時の疼痛、胃酸逆流に伴う症状などについて研究。
胃腸疾患のほか、膵炎など、消化器全般の診療に携わる。
東京iCDC後遺症タスクフォースのメンバーとして、東京都におけるコロナ後遺症の感染症に関する政策立案や情報収集・発信等に貢献。渋谷ヒラハタクリニックにて、2700人を超えるコロナ後遺症患者を診療。日本におけるコロナ後遺症治療のトップランナーの一人。

参考文献