「もしかして性感染症(性病)かも……」体にいつもと違うサインが現れたとき、誰にも相談できず一人で不安を抱えていませんか。性感染症は特別な人だけがかかる病気ではなく、性的な経験があれば誰にでも感染の可能性があります。大切なのは、正しい知識を持って、早期に対処することです。
この記事では、代表的な性感染症の種類別に、具体的な症状や潜伏期間、治療法などを分かりやすく解説します。ご自身の状況と照らし合わせ、不安の解消と次にとるべき行動の判断にお役立てください。

性感染症(STI)とは?

性感染症は、以前「性病」と呼ばれていましたが、近年ではSTI(Sexually Transmitted Infections)という呼称が国際的に広く使われています。まずは、性感染症の基本的な知識について理解を深めましょう。
性行為で感染する病気の総称
性感染症(STI)とは、主に性行為によって、人から人へとうつる感染症の総称です。原因となる病原体には、ウイルス、細菌、原虫など様々な種類があります。性器同士の接触だけでなく、オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)など、粘膜が触れ合う行為でも感染する可能性があります。
症状が出ないことも多い「沈黙の病気」
性感染症の大きな特徴の一つは、感染しても症状が全く出ない、あるいは症状が非常に軽いケースが多いことです。特に女性は症状を自覚しにくく、知らないうちに感染を広げてしまったり、病気が進行してしまったりすることがあります。自覚症状がなくても定期的に検査を受けることが重要です。
放置するリスク(不妊や合併症)
症状がないからといって性感染症を放置すると、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。例えば、クラミジアや淋菌感染症は、女性の場合は骨盤内炎症性疾患を引き起こし、子宮外妊娠や不妊症の原因となることがあります。男性の場合も、精巣上体炎などを起こし、男性不妊につながるリスクがあります。早期に発見し、適切な治療を受けることが、将来の健康を守るために不可欠です。
【種類別】代表的な性感染症の症状・原因・治療法
性感染症には多くの種類があり、それぞれ原因となる病原体や症状が異なります。ここでは、代表的な性感染症について、その特徴や治療法を解説します。
クラミジア感染症
日本で最も報告数の多い性感染症がクラミジア感染症です。感染しても無症状のことが多く、特に女性の約8割は症状を自覚しません。男性は排尿時に軽い痛みを感じたり、尿道から透明~乳白色の膿が出たりすることがあります。女性では、おりものの増加や不正出血、下腹部痛などの症状が現れることがあります。治療には、主に抗菌薬の内服が用いられます。
参考:性器クラミジア感染症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
淋菌感染症(淋病)
淋菌感染症は、クラミジアに次いで多い性感染症です。男性では、排尿時に強い痛みを感じ、黄色く粘り気のある膿が尿道から出るといった、比較的はっきりした症状が現れます。一方、女性は症状が軽いことが多く、おりものが少し増える程度で気づかないことも少なくありません。放置すると男女ともに不妊の原因となるため、早期治療が重要です。治療には、主に抗菌薬の注射が行われます。
参考:淋菌感染症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
性器ヘルペス
単純ヘルペスウイルスの感染によって、性器やその周辺に痛みやかゆみを伴う水ぶくれができる病気です。初めて感染した時は、強い痛みや発熱を伴うこともあります。一度感染するとウイルスが体内に潜伏し続け、ストレスや疲労をきっかけに再発を繰り返すのが特徴です。治療には、抗ウイルス薬の内服や外用薬が用いられます。
参考:性器ヘルペスウイルス感染症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
梅毒
梅毒は、近年、特に若い女性の間で感染者数が急増しており、注意が必要な性感染症です。感染後の時期によって様々な症状が現れます。初期には、感染した部位(性器、口、肛門など)にしこりができますが、痛みがないため見過ごされがちです。その後、治療しないままでいると、全身に赤い発疹が広がります。妊娠中の女性が感染すると、胎児に深刻な影響を及ぼす(先天梅毒)危険があります。治療には、抗菌薬が長期間用いられます。
参考:梅毒(詳細版)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で、性器や肛門の周りにイボができる病気です。イボはニワトリのトサカやカリフラワーのような形をしており、痛みやかゆみはほとんどありません。一度治療しても再発することが多いのが特徴です。治療法には、塗り薬による治療のほか、液体窒素による凍結療法やレーザー治療などがあります。
参考:尖圭コンジローマ(詳細版)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
HIV感染症(エイズ)
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染によって、体の免疫力が徐々に低下していく病気です。感染初期には、発熱や喉の痛み、倦怠感など、風邪に似た症状が出ることがありますが、その後は無症状の期間が数年から10年以上続きます。
治療せずに放置し、免疫力が著しく低下すると、健康な人ではかからないような様々な感染症(日和見感染症)を発症し、この状態をエイズ(後天性免疫不全症候群)と呼びます。現在では治療法が進歩し、早期に服薬を開始すれば、エイズの発症を防ぎ、健康な人とほとんど変わらない生活を送ることが可能です。
参考:
HIV感染症/AIDS(後天性免疫不全症候群)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
その他の性感染症(カンジダ、トリコモナスなど)
上記以外にも、性行為で感染する可能性のある病気は存在します。女性によく見られる腟カンジダ症は、強いかゆみとカッテージチーズ状のおりものが特徴です。また、トリコモナス原虫が原因となるトリコモナス腟炎は、泡状で悪臭の強いおりものや、腟の強いかゆみを引き起こします。これらの病気も、婦人科などで適切な治療を受けることが大切です。
参考:カンジダ症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
性感染症の検査と治療の流れ

「症状がある」「感染したかもしれない」と不安に思ったら、まずは検査を受けることが第一歩です。ここでは、検査や治療の具体的な流れについて解説します。
どこで検査できる?何科に行けばいい?
性感染症の検査や治療は、専門の医療機関で受けることができます。男性の場合は泌尿器科や性感染症内科、皮膚科、女性の場合は婦人科や性感染症内科、皮膚科が主な受診先となります。また、全国の保健所では、特定の性感染症(HIV、梅毒、クラミジアなど)について、無料・匿名で検査を受けられる場合があります。自治体によって実施状況が異なるため、お住まいの地域の保健所に問い合わせてみてください。
検査方法の種類(血液・尿・ぬぐい)
検査方法は、疑われる病気の種類によって異なります。HIVや梅毒、B型肝炎などは血液検査で調べます。クラミジアや淋病は、男性は尿検査、女性は腟からの分泌物を綿棒でぬぐって検査するのが一般的です。のどに感染が疑われる場合は、うがい液や、のどの奥を綿棒でぬぐって検査します。いずれの検査も、大きな痛みはありません。
治療の基本は薬物療法
多くの性感染症は、原因となる病原体に合わせた薬物療法で治療が可能です。細菌が原因のクラミジアや淋病、梅毒などには抗菌薬(飲み薬や注射)が、ウイルスが原因の性器ヘルペスやHIV感染症には抗ウイルス薬が用いられます。医師の指示通りに、決められた期間で薬を服用し続けることが治療のために非常に重要です。
パートナーと一緒に検査・治療を
自分が性感染症と診断された場合、パートナーも感染している可能性が非常に高いです。自分だけが治療しても、パートナーが感染したままだと、再びうつし合ってしまう「ピンポン感染」を繰り返すことになります。大切なパートナーを守るためにも、診断されたら正直に事実を伝え、一緒に検査・治療を受けるようにしましょう。
日常でできる性感染症の予防法

性感染症は、正しい知識を持ち、適切な行動を心がけることで、その多くを予防することができます。日頃から感染予防を意識することが、自分とパートナーの健康を守ることにつながります。
コンドームの正しい使用が最も重要
性感染症の予防において、最も手軽で効果的な方法はコンドームを使用することです。性行為の最初から最後まで、正しくコンドームを装着することで、粘膜の接触を防ぎ、感染リスクを大幅に減らすことができます。ただし、コンドームで覆われない部分の皮膚接触で感染する病気(梅毒、性器ヘルペスなど)もあるため、100%防げるわけではないことも理解しておきましょう。
不特定多数との性行為を避ける
パートナーの数が増えるほど、性感染症に感染するリスクは高まります。リスクを避けるためには、不特定多数の相手との性行為を控え、信頼できる特定のパートナーとお互いの健康状態を確認し合うことが大切です。
ワクチンで予防できる性感染症(HPVなど)
一部の性感染症は、ワクチンで感染を予防することができます。代表的なものが、尖圭コンジローマや子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)のワクチンです。日本では、小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象に、公費での接種が可能です。性交渉の経験がないうちに接種することが最も効果的とされています。
性感染症に関するよくある質問
最後に、性感染症に関して多くの方が疑問に思う点についてお答えします。
1回の性行為でも感染しますか?
はい、感染します。病原体を持った相手と一度でもコンドームを使用しない性行為を行えば、感染する可能性は十分にあります。感染率は病気の種類や行為の内容によって異なりますが、「一度だけなら大丈夫」ということは決してありません。
潜伏期間はどれくらいですか?
潜伏期間は、性感染症の種類によって大きく異なります。淋菌のように数日で症状が出るものもあれば、クラミジアのように1~3週間、梅毒のように約3週間かかるものもあります。HIVのように、初期症状が出た後、長い無症状の期間が続く病気もあります。感染の機会から3ヶ月が経過していれば、ほとんどの性感染症の検査で正確な結果が得られます。
温泉やプールで感染することはありますか?
性感染症の病原体は、水の中や物に付着した状態で長く生きることはできません。そのため、公衆浴場や温泉、プール、トイレの便座などを介して感染する可能性は、医学的にはほぼないと考えられています。感染経路は、あくまで性行為やそれに準ずる粘膜接触が中心です。
まとめ:不安な症状があれば、まずは専門医へ相談を
性感染症は、性行為の経験があれば誰にでも感染の可能性があります。症状が出ないことも多く、放置すると不妊など深刻な事態につながるため、早期発見と治療が何よりも重要です。不安な症状や心当たりがあれば、ためらわずに医療機関を受診し、パートナーと一緒に検査・治療を行いましょう。コンドームの正しい使用で、あなたと大切な人の健康を守ることができます。
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