HIV治療費の月額はいくら?高額な医療費の負担を軽減する公的支援制度を分かりやすく解説 

目次

HIVの治療には高額な費用がかかるというイメージがあり、将来に不安を感じている方も少なくないでしょう。しかし、日本には手厚い公的医療制度があり、それらを活用することで自己負担を大幅に軽減できます。

この記事では、HIV治療にかかる費用の内訳から、医療保険や公的制度を利用した場合の自己負担額、そして具体的な申請手続きの流れまでを詳しく解説します。費用に関する不安を解消し、安心して治療に専念するための一助となれば幸いです。

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HIV治療にかかる費用の内訳 

HIV治療にかかる費用の内訳

HIV治療にかかる費用は、主に「抗HIV薬の費用」と「定期的な診察や検査にかかる費用」の2つに分けられます。これらは治療を継続していく上で、継続的に発生する費用です。 

治療の中心となる抗HIV薬の費用

HIV治療の根幹をなすのが、ウイルスの増殖を抑える「抗HIV薬」です。現在の治療では、複数の薬剤を組み合わせて服用する多剤併用療法が基本となります。

これらの薬剤は非常に高価であり、医療保険を適用しない場合、1ヶ月あたり15万円から20万円程度の費用がかかると言われています。治療内容によって薬の種類や組み合わせが異なるため、薬剤費も変動します。 

定期的な診察や検査にかかる費用 

抗HIV薬による治療効果の確認や、副作用の有無をチェックするために、定期的な通院と検査が不可欠です。体調が安定している場合、通院は3か月に1度程度となることが多いです。

診察時には、血液検査によってウイルス量(血液中のHIVの量)やCD4陽性リンパ球数(免疫力の指標)などを測定し、治療が順調に進んでいるかを確認します。これらの診察費や検査費も、治療費の一部となります。 
 

医療保険を使っても高額?実際の自己負担額の目安

 HIV治療の費用は高額ですが、日本の公的医療保険制度を利用することで、自己負担を大幅に抑えることが可能です。ここでは、保険適用後の自己負担額や、さらに負担を軽減するための制度について解説します。 

保険適用で自己負担は3割になる

日本国民であれば誰もが加入している公的医療保険(健康保険や国民健康保険など)を適用することで、HIV治療にかかる医療費の自己負担額は原則3割になります。

例えば、1ヶ月の総医療費が20万円だった場合、窓口での支払いは6万円となります。しかし、これだけでも毎月の負担としては決して軽い金額ではありません。

制度利用前の月々の自己負担額 

公的医療保険を適用しても、月々の自己負担額は5万円から8万円程度になることが一般的です。しかし、日本の医療制度には、この自己負担額をさらに軽減するための仕組みが複数用意されています。

その代表的なものが「高額療養費制度」や、後述する「自立支援医療(更生医療)」などの公費負担医療制度です。これらの制度を活用することで、最終的な自己負担額を大きく減らすことができます。 
参考:高額療養費制度を利用される皆さまへ 

公的制度を利用した場合の自己負担額シミュレーション 

HIV治療の経済的負担を軽減するためには、公的制度の活用が鍵となります。特に「身体障害者手帳」の取得を前提とした「自立支援医療(更生医療)」を利用することで、月々の自己負担額に上限を設けることができます。 

収入によって自己負担額の上限が変わる 

自立支援医療(更生医療)制度を利用すると、医療費の自己負担割合が原則1割に軽減されます。さらに、世帯の所得に応じて1ヶ月あたりの自己負担上限額が設定されており、それを超える支払いは発生しません。

HIV感染症の治療は「重度かつ継続」の対象となるため、所得が一定以上の方でも自己負担額の上限が緩和される優遇措置があります。 
参考:厚生労働省:自立支援医療について 

【年収別】月々の自己負担額の目安 

自立支援医療(更生医療)を適用した場合の、世帯の所得状況に応じた自己負担上限月額の目安は以下の通りです。ご自身の状況と照らし合わせてご確認ください。 

所得区分 自己負担上限月額(重度かつ継続の場合)
生活保護世帯 0円
住民税非課税世帯(年収約80万円以下) 2,500円
住民税非課税世帯(上記以外) 5,000円
住民税課税世帯(住民税額3万3千円未満) 5,000円
住民税課税世帯(住民税額3万3千円以上23万5千円未満) 10,000円
住民税課税世帯(住民税額23万5千円以上) 20,000円

参考:自立支援医療等における利用者負担区分の見直しについて 

各種制度を利用するための申請手続きと流れ 

HIV治療費の負担を軽減する制度を利用するためには、ご自身での申請手続きが必要です。ここでは、主に利用される3つの制度「身体障害者手帳」「自立支援医療(更生医療)」「高額療養費制度」の申請方法について解説します。 

身体障害者手帳の申請方法 

自支援医療(更生医療)など、多くの医療費助成制度の基盤となるのが身体障害者手帳(免疫機能障害)です。申請窓口はお住まいの市区町村の障害福祉担当課になります。 

主な必要書類 申請書 指定医が作成した診断書・意見書 マイナンバーが確認できる書類 顔写真

申請の流れは以下の通りです。 

流れ 申請手順
ステップ1 市区町村の窓口で申請書類を入手
ステップ2 必要書類を揃えて窓口に提出
ステップ3 審査を経て、約1〜2ヶ月で手帳が交付

参考:身体障害者手帳について|身体障害者手帳|東京都心身障害者福祉センター 

自立支援医療(更生医療)の申請方法 

身体障害者手帳を取得した方が、抗HIV療法などの治療を受ける際に医療費の助成が受けられる制度です。申請窓口はお住まいの市区町村の担当窓口(障害福祉担当課など)になります。 

主な必要書類 申請書  医師の意見書  身体障害者手帳の写し  健康保険証の写し  所得状況が確認できる書類

申請の流れは以下の通りです。   

流れ 申請手順
ステップ1 市区町村の窓口で申請書類を入手
ステップ2 必要書類を揃えて窓口に提出
身体障害者手帳と同時に申請することも可能
ステップ3 認定されると「自立支援医療受給者証」が交付される
医療機関の窓口で提示することで助成が適用される

高額療養費制度の申請方法 

1ヶ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分の金額が払い戻される制度です。申請窓口はご自身が加入している公的医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、市区町村の国民健康保険窓口など)になります。   

事後申請 医療機関の窓口で3割分の自己負担額を支払い、後日、加入している医療保険に申請して上限額を超えた分の払い戻しを受ける。
事前申請 事前に「限度額適用認定証」の交付を受け、医療機関の窓口で提示することで、支払いを自己負担限度額までに抑えられる。

多くの場合、高額療養費に該当した方には医療保険から申請書が送付されますが、事前に認定証を入手しておく方が一時的な負担を抑えられます。 
参考:中央区ホームページ/医療費が高額になりましたが、申請すれば戻ると聞いたのですが。 
高額療養費制度を利用される皆さまへ |厚生労働省 

HIV治療費に関してよくある質問 

HIV治療費に関してよくある質問 

ここでは、HIV治療費に関して多くの方が抱く疑問についてお答えします。ジェネリック医薬品の利用、プライバシーの問題、支払いが困難な場合の対処法などを解説します。 

ジェネリック医薬品を利用して費用を抑えられますか? 

はい、日本でも抗HIV薬のジェネリック医薬品が利用可能です。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同等の有効成分や効果を持ちながら、より安価に提供される医薬品です。

ただし、自立支援医療などの公費負担制度を利用している場合、自己負担額は上限が定められているため、ジェネリック医薬品に変更しても窓口での支払額は変わらないことが多いです。 詳しくは主治医や薬剤師にご相談ください。 

参考:ジェネリック医薬品への 疑問に答えます(厚生労働省) 

職場に知られずに制度を利用することは可能ですか?

はい、可能です。身体障害者手帳や自立支援医療などの制度を利用したことが、ご自身の許可なく職場に知られることはありません。申請手続きは市区町村の役所で行い、会社を通す必要はありません。

健康保険組合に高額療養費制度の申請をする際も、病名が会社に伝わることは基本的にありませんが、血液製剤によるHIV感染症の場合など、一部の制度では注意が必要なケースもあります。プライバシーが心配な場合は、病院の医療ソーシャルワーカーに相談することをおすすめします。 

参考:健康保険組合等における個人情報の適切な 取扱いのためのガイダンス.pdf 

もし支払いが困難な場合はどうすればよいですか? 

万が一、治療費の支払いが困難になった場合でも、相談できる窓口があります。まずは、通院している病院の医療ソーシャルワーカーに相談してください。

医療ソーシャルワーカーは、利用できる他の公的制度(生活保護や医療費の減免制度など)について一緒に考え、手続きのサポートをしてくれます。経済的な理由で治療を中断してしまうことがないよう、一人で抱え込まずに専門家に相談することが重要です。 

参考:医療ソーシャルワーカーの業務内容 | 公益社団法人 日本医療ソーシャルワーカー協会 

不安な時は一人で抱え込まず専門家に相談しましょう 

不安な時は一人で抱え込まず専門家に相談しましょう 


HIV治療やその費用については、多くの不安や疑問がつきものです。そんな時は、一人で悩まずに専門家や支援団体に相談することが大切です。プライバシーは守られますので、安心して話をすることができます。 

病院の医療ソーシャルワーカー

 通院している病院には、医療ソーシャルワーカー(MSW)が在籍していることが多いです。MSWは、医療費や生活費といった経済的な問題、心理的な悩み、社会福祉制度の利用方法など、様々な相談に応じてくれる専門家です。

治療費の支払いが難しい場合や、利用できる制度について詳しく知りたい場合に、まず相談すべき相手と言えるでしょう。 

地域の保健所やHIV拠点病院 

お住まいの地域の保健所でも、HIVに関する相談を受け付けています。また、全国には専門的なHIV診療を提供する「HIV拠点病院」が指定されており、これらの病院には専門の相談窓口が設置されていることが多いです。 医療ソーシャルワーカーや専門の看護師などが対応してくれます。 

NPO法人などの支援団体 

HIV陽性者やその家族、パートナーを支援するためのNPO法人やNGO団体も全国に存在します。これらの団体では、同じ立場にある人々と交流できるピアサポート活動や、専門のスタッフによる電話相談・対面相談などを実施しています。

医療機関とは異なる視点からの情報提供や、精神的なサポートを受けることができます。 

まとめ 

HIV治療の費用は、公的医療保険や様々な助成制度を活用することで、自己負担を抑えることが可能です。治療費への不安から受診をためらったり、治療を中断したりする必要は全くありません。まずは、身体障害者手帳の申請を行い、自立支援医療(更生医療)といった制度を利用することが、経済的負担を軽減するための第一歩です。

手続きに関して不明な点があれば、病院の医療ソーシャルワーカーや地域の相談窓口が親身にサポートしてくれます。正しい情報を知り、利用できる制度を適切に活用することで、経済的な心配を減らし、安心して治療に専念できる環境を整えましょう。 

 
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