お子さんの肌に現れるかゆみを伴う湿疹。「ただの肌荒れかな?」と思いきや、良くなったり悪くなったりを繰り返し、掻きむしる姿に心を痛めている保護者の方も多いのではないでしょうか。それは「アトピー性皮膚炎」かもしれません。子供のアトピー性皮膚炎は、適切なケアと治療で症状をコントロールできる病気です。この記事では、子供のアトピー性皮膚炎の基本的な知識から、ご家庭でできるスキンケア、薬との付き合い方、日常生活の注意点まで、詳しく解説します。
子供のアトピー性皮膚炎とは?特徴と診断基準
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が、良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す皮膚の病気です。多くは乳幼児期に発症し、成長とともに改善する傾向がありますが、成人まで続くこともあります。
【参考記事】アトピー性皮膚炎 | 国立成育医療研究センター
年齢によって症状の出る場所が変わる
アトピー性皮膚炎の湿疹は、体のどこにでも現れる可能性がありますが、年齢によって症状が出やすい部位が変化するのが特徴です。一般的に、左右対称に症状が出やすいとされています。
年齢 | 症状が出やすい部位 | 主な症状 |
乳児期(~2歳未満) | 顔(特に頬、口周り)、頭、首 | 赤み、じゅくじゅくした湿疹、かさぶた |
幼児・学童期(2~12歳) | 首周り、ひじの内側、ひざの裏側、手首、足首 | 皮膚の乾燥、ゴワゴワして硬くなる(苔癬化) |
思春期・成人期(13歳~) | 顔、首、胸、背中など上半身 | 長引く炎症による色素沈着、乾燥 |
「かゆみのある湿疹」が慢性的に続く病気
アトピー性皮膚炎と診断されるには、いくつかの基準があります。一番の特徴は「かゆみ」と「特徴的な湿疹と分布」です。それに加え、症状が慢性的に繰り返されることが診断の重要なポイントとなります。日本皮膚科学会では、乳児では2ヵ月以上、それ以上の年齢では6ヵ月以上症状が続く場合を慢性と判断する目安としています。 また、家族にアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎などを持つ人がいるか(アトピー素因)も参考にされます。
【参考記事】jstage.jst.go.jp/article/dermatol/126/2/126_121/_pdf
なぜ起こるの?子供のアトピー性皮膚炎の主な原因

アトピー性皮膚炎が発症する原因は、まだ完全には解明されていませんが、主に「体質的な要因」と「環境的な要因」が複雑に絡み合って起こると考えられています。
遺伝的なアレルギー体質(アトピー素因)
アトピー性皮膚炎は、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)が関係していると考えられています。ご家族にアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、食物アレルギーなどを持つ方がいる場合、お子さんも同じような体質を受け継いでいる可能性があります。
外部の刺激から肌を守れない「皮膚のバリア機能低下」
健康な皮膚は、表面の皮脂膜や角層がバリアとなって、外部からの刺激やアレルゲン(アレルギーの原因物質)の侵入を防ぎ、体内の水分が蒸発しないように守っています。しかし、アトピー性皮膚炎の人の皮膚は、このバリア機能が生まれつき低下している状態です。バリア機能が弱いと、些細な刺激でも皮膚の内部にまで届いてしまい、免疫細胞が過剰に反応して炎症を起こし、かゆみや湿疹につながります。
症状を悪化させる様々な要因
皮膚のバリア機能が低下しているところに、様々な刺激が加わることで症状は悪化します。悪化要因は人によって異なりますが、代表的なものには以下のようなものがあります。
悪化要因の種類 | 具体例 |
アレルゲン | ダニ、ハウスダスト、花粉、ペットの毛、特定の食物など |
物理的な刺激 | 汗、よだれ、髪の毛の接触、衣類のこすれ、掻き壊し |
化学的な刺激 | 石鹸や洗剤のすすぎ残し、化粧品、香料 |
その他 | 睡眠不足、過労、ストレス、感染症(とびひなど) |
子供のアトピー性皮膚炎の基本的な治療法

アトピー性皮膚炎の治療目標は、症状がない、またはあっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態を維持することです。そのためには、3つの治療法をうまく組み合わせて、根気よく続けることが大切です。
治療の3本柱「スキンケア・薬物療法・悪化要因への対策」
アトピー性皮膚炎の治療は、以下の3つが基本となります。
- スキンケア:皮膚のバリア機能を補うために、洗浄と保湿で皮膚を清潔でうるおった状態に保ちます。
- 薬物療法:起きている炎症を抑えるために、ステロイド外用薬や免疫抑制外用薬などを使用します。
- 悪化要因への対策:汗やアレルゲンなど、症状を悪化させる原因を特定し、可能な限り取り除きます。
これら3つはどれか一つだけを行えば良いというものではなく、すべてを並行して行うことが症状改善への近道です。
炎症を抑える「薬物療法」の種類
薬物療法は、アトピー性皮膚炎の「炎症」を抑えるための治療の主役です。かゆみや湿疹は、皮膚の内部で起きている炎症のサインです。この炎症をしっかりと抑えない限り、かゆみはなくならず、掻き壊してさらにバリア機能が壊れるという悪循環に陥ってしまいます。 主に使われるのは、炎症を抑えるための塗り薬(外用薬)と、かゆみを和らげるための飲み薬(内服薬)です。
良い状態を維持するための「プロアクティブ療法」
以前は、症状が悪化した時だけ薬を塗り、良くなったらやめる「リアクティブ療法」が主流でした。しかし、この方法では症状の再燃を繰り返しやすいことが分かってきました。そこで現在推奨されているのが「プロアクティブ療法」です。 これは、湿疹が良くなった後も、週に数回など定期的に薬を塗り続けることで、目には見えない皮膚の奥の炎症(かくれ炎症)をコントロールし、良い状態を長く維持することを目指す治療法です。医師の指示に従って、根気よく治療を続けましょう。
毎日の基本!正しいスキンケアの具体的な方法

スキンケアは、アトピー性皮膚炎治療の基本であり、最も重要な柱です。皮膚を清潔にし、うるおいを与えることで、低下してしまった皮膚のバリア機能を補うことができます。
洗浄:石鹸をよく泡立てて優しく洗う
汗や汚れ、皮膚についたアレルゲンなどを洗い流すために、毎日1回、お風呂やシャワーで体を洗いましょう。その際は、低刺激性の石鹸や洗浄剤をよく泡立て、手で優しくなでるように洗うのがポイントです。 ゴシゴシこすると皮膚を傷つけ、バリア機能をさらに低下させてしまうので避けましょう。洗浄剤が残らないよう、ぬるめのお湯(38~40℃)で十分にすすぎます。
保湿:お風呂上がりはすぐに保湿剤を塗る
入浴後の肌は、水分が急速に蒸発して乾燥しやすい状態です。タオルで優しく水分を拭き取ったら、できるだけ早く(5分以内を目安に)保湿剤を全身に塗りましょう。 保湿剤にはヘパリン類似物質やワセリンなど様々な種類があります。医師と相談し、お子さんの肌の状態や季節に合ったものを選びましょう。
保護:処方された薬を正しく塗って肌を守る
湿疹が出ている部分には、医師から処方された薬(ステロイド外用薬など)を塗ります。保湿剤を塗った後に薬を塗るのが一般的ですが、医師の指示に従ってください。薬を塗ることで炎症を抑え、かゆみを和らげ、掻き壊しによるさらなる悪化を防ぎます。
塗り薬の種類と正しい塗り方のポイント
アトピー性皮膚炎の治療で中心となるのが塗り薬です。正しく使うことで、効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを減らすことができます。
ステロイド外用薬の役割と強さのランク
ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を強力に抑える作用があり、アトピー性皮膚炎治療の基本となる薬です。 副作用を心配する声も聞かれますが、医師の指導のもと、症状や部位に合わせて適切な強さの薬を適切な期間使用すれば、非常に効果的で安全な薬です。ステロイド外用薬は、効果の強さによって5段階にランク分けされており、症状の重さ、塗る部位、年齢などに応じて使い分けられます。
ランク | 強さ | 主な適応(重症度基準) | 部位による調整 |
Strongest (最も強い) | I群 | 痒疹結節など、II群で効果不十分な場合に部位限定で使用 | 手のひら、足の裏など角層が厚い部位 |
Very Strong (とても強い) | II群 | 重症皮疹(高度の腫脹・浸潤・苔癬化など) | 体幹、手足 |
Strong (強い) | III群 | 中等症〜重症皮疹 | 体幹、手足 |
Medium (普通) | IV群 | 軽症〜中等症皮疹 | 顔、首、陰部 |
Weak (弱い) | V群 | 軽症皮疹 | 顔、首、陰部 |
免疫抑制外用薬(タクロリムス軟膏など)との使い分け
ステロイド外用薬の他に、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏といった免疫抑制外用薬も使われます。 これらは、ステロイドとは異なる仕組みで免疫の過剰な働きを抑え、炎症を鎮めます。顔や首など、皮膚が薄くステロイドの長期使用に注意が必要な部位に使われることが多いです。また、プロアクティブ療法にも適しています。ただし、2歳未満の子供には使用できないなどの制限があるため、医師の指示に従うことが重要です。
塗り薬の適量「フィンガーチップユニット」を覚えよう
薬の効果を十分に得るためには、適量を塗ることが大切です。量が少なすぎると十分な効果が得られません。塗り薬の量の目安として「フィンガーチップユニット(FTU)」という単位が用いられます。 これは、大人の人差し指の先から第一関節までチューブから薬を出した量(約0.5g)で、大人の手のひら約2枚分の面積に塗るのが適量とされています。お子さんの場合は、体の大きさに応じて量を調整します。医師や薬剤師に具体的な塗り方を確認しましょう。
日常生活で気をつけたい悪化させないための対策
薬物療法やスキンケアと合わせて、日常生活の中で症状の悪化につながる刺激を減らしていくことも大切です。
衣服や寝具は肌に優しい素材を選ぶ
肌に直接触れる下着や衣類、シーツなどは、吸湿性が良く、肌触りの柔らかい綿素材がおすすめです。 チクチクするウールやゴワゴワする化学繊維は避けましょう。新しい衣類は一度洗濯してから着るようにすると、化学物質による刺激を減らせます。また、洗剤が残らないよう、すすぎは十分に行いましょう。
食事で気をつけるべきこと
乳幼児期のアトピー性皮膚炎では、食物アレルギーが関与している場合があります。しかし、自己判断で特定の食物を除去することは、子供の成長に必要な栄養を妨げるリスクがあるため絶対にやめましょう。 食物アレルギーが疑われる場合は、必ず医師に相談し、適切な検査を受けた上で指示に従ってください。
掻き壊しを防ぐための工夫
かゆい時に掻いてしまうのは仕方がありませんが、掻き壊しは皮膚のバリア機能をさらに破壊し、症状を悪化させる最大の要因です。 爪は常に短く切り、やすりで丸くしておきましょう。かゆみが強い時は、冷たいタオルなどで冷やすと一時的に和らぐことがあります。また、日中は遊びに集中させるなど、かゆみから気をそらす工夫も有効です。
子供のアトピーに関するよくある質問
ここでは、保護者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
ステロイドを長期間使い続けても大丈夫?
「ステロイドは怖い薬」というイメージがあるかもしれませんが、皮膚科の専門医の指導のもとで正しく使用すれば、副作用の心配はほとんどありません。 むしろ、怖がって薬を使わずに炎症を長引かせることの方が、皮膚へのダメージが大きくなります。自己判断で塗るのをやめたり量を減らしたりせず、必ず医師の指示通りに使用しましょう。
食物アレルギーとは関係がありますか?
乳児期のアトピー性皮膚炎では、食物アレルギーが関与しているケースも少なくありません。特に、スキンケアをしっかり行っても湿疹が改善しない場合は、食物アレルギーの可能性も考えられます。 しかし、湿疹の原因がすべて食物にあるわけではありません。アレルギー検査や食物経口負荷試験などで正確な診断を受けることが重要です。
スイミングやプールには入れますか?
プールの水に含まれる塩素は、皮膚への刺激となる可能性があります。しかし、一般的には泳ぐこと自体に問題はありません。プールから上がった後は、シャワーで塩素をしっかりと洗い流し、すぐに保湿剤を塗るなどのケアをすれば大丈夫です。 ただし、じゅくじゅくした湿疹がある場合や、掻き壊してとびひになっている時などは、悪化させたり他の人にうつしたりする可能性があるので控えましょう。事前に医師に相談することをおすすめします。
まとめ:正しい知識を身につけてアトピーと上手に付き合おう
子供のアトピー性皮膚炎は、良くなったり悪くなったりを繰り返すため、治療が長期にわたり、保護者の方の負担も大きくなりがちです。しかし、病気や治療法について正しく理解し、「スキンケア」「薬物療法」「悪化要因への対策」の3本柱を根気よく続けることで、症状をコントロールし、健やかな毎日を送ることは十分に可能です。不安なことや分からないことがあれば、一人で抱え込まず、かかりつけの医師や薬剤師に相談しましょう。
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