体内時計を整えて健やかな毎日を

私たちの体は24時間周期で「朝になると目が覚めて活動モードになり、夜になると眠くなって休息モードになる」というリズムを繰り返しています。
この生体リズムに関連した遺伝子の研究が2017年にノーベル賞を受賞したことで、規則正しい生活をすることが睡眠障害や生活習慣病などさまざまな体の不調を予防・改善し、健康増進につながる要素として注目されるようになりました。

★心身をコントロールする「体内時計」

<生体リズムの仕組み>

生体リズムは「体内時計(時計遺伝子)」の働きによって刻まれながら、睡眠や体温調節、ホルモン分泌など体の基本的な機能がコントロールされています。地球の自転周期と関わっているため「概日リズム(サーカディアン・リズム)」とも呼ばれています。
体内時計は全身のあらゆる細胞に存在していますが、メインは脳にある視交叉上核という神経細胞が指揮となって全身の動きが整えられています。

体内時計によって刻まれるリズムは実際には24時間より少し長いため(24.5~25時間)、地球の自転周期である24時間とのズレを微調整する必要があるのですが、このリセットがうまくできない生活を続けると、健康状態に支障をきたすことがわかっています。

<体内時計の乱れによって起こる体の不調>

夜更かしや朝寝坊、食事時間のズレといった不規則な生活が習慣化すると、下記のような症状が起こりやすくなります。

・睡眠障害(不眠、朝のだるさ、日中の眠気など)
・肥満や生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)
・自律神経失調症(頭痛、倦怠感、胃腸の症状など)
・やる気や集中力の低下

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<ルーティーンの大切さ>

モーニングルーティーンのように毎日同じ時間に同じ行動をしたり、スポーツ選手がここぞという場面でお決まりの動作をして集中力を高めたりすることは、体内時計を整え心身をコントロールするための重要なポイントといえます。

健康づくりや日々のパフォーマンスは「習慣」と関わりが深いものです。
体の調子を整えるだけでなく、大事な試験や仕事の成果にもつなげられるよう心と体のリズムを意識したライフスタイルを心がけていきましょう。

★光刺激で睡眠リズムを整える

体内時計のリセット効果がある代表的なものが、日光です。
光の刺激が体内時計の主軸となる脳の視交叉上核に働きかけ、「朝が来たので活動を始めましょう」という指令を出すきっかけとなります。

<体内時計と睡眠ホルモン(メラトニン)>

脳の松果体から分泌されるメラトニンというホルモンがあります。
メラトニンは睡眠ホルモンといわれ、夜になると分泌が増えて眠気を誘い、朝の明るい光によって分泌が抑制されて心身の目覚めにつながります。

「夜のスマホ利用が眠りを妨げる」といわれるのは、メラトニンが人工的な光にも影響されると考えられているためです。
夜になっても明るい光を浴び続けているとメラトニンの分泌が遅れて夜更かしの原因になり、それが習慣化することで睡眠リズムが後ろにずれる夜型体質になっていきます。

メラトニン分泌の乱れによる睡眠リズムのズレは、昼夜の24時間サイクルと体内時計のズレをより深め、健康リスクを高める原因として問題視されています。

<朝起きたらカーテンを開けましょう>

体内時計を整え1日の始まりのスイッチを入れるためには、起床後に朝日を浴びることが大切です。

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また、日中に明るい光を浴びておくことで夜のメラトニンの分泌が促進し、夜は自然に眠りつくことができ、翌朝も良好な目覚めにつながります。
家に閉じ籠りがちになると不健康になっていくのは、単に活動量が減って体力が落ちるだけでなく、体内時計の乱れが新陳代謝や自律神経に影響してしまうことにも関係しています。

入眠や目覚め、体内のさまざまな機能は自分の意思でうまくコントロールできないものだからこそ、毎日の習慣でリズムを整えておく必要があるのです。

★体内時計と食事時間の関係「時間栄養学」という言葉があります。食生活のリズムを体内時計に合わせて、「いつ、どのように食べるか」に重きをおいて研究されている学問です。

<1日3回、定刻の食事を心がけましょう>食事は栄養面の効果だけでなく、睡眠と同じく体のリズムをつくる役割をもっています。
就寝と起床の時刻を日々揃えるように、1日3回決まった時刻に食事をとることでその習慣が脳にインプットされ、体内時計が整うとともに食べたものが体内で適切に代謝される働きも高まっていきます。
最近では肥満やメタボリックシンドロームといった生活習慣病の予防策として、時間栄養学の考え方が数多く示されるようになりました。

「食べなければ、カロリー摂取が減るから痩せる」と思われがちですが、空腹時間が長くなることで脳が飢餓の危険を感じ、生命維持のために体内で使われるエネルギーを節約しようと基礎代謝を低下させ、体脂肪を溜めようとしていきます。
そのため、食事の回数が少ないほど肥満を招きやすくなるのです。

<朝食、なぜ大事なの?>「早寝早起き朝ごはん」という言葉もあるように、朝食摂取は健康面におけるとても重要なカギとなります。

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・体内時計のリセット効果
朝食を食べることで胃腸などの内臓機能が動き出し、その刺激によって1日の活動開始時刻になったことを脳が認識することで、睡眠中に休息モードだった全身の機能が活動モードへと切り替わっていきます。
・エネルギー消費の違い
同じ食事でも食べる時間によって栄養素の代謝が異なります。
朝食では体内時計のスイッチが入り心身が活性化するため食べたものがエネルギーに変わりやすいのですが、逆に夜遅い時間の食事ではエネルギーが消費されにくく脂肪になっていきます。
・欠食後の食事への影響
朝食を欠食すると次に食べる際に食欲が増進し、昼食や夕食でドカ食いになってしまうことがあります。それによって血糖値が急激に上昇し、インスリンの過剰分泌によって脂肪が蓄積されやすくなります。

<3時のおやつ・夜の分食>体内には「BMAL1(ビーマルワン)」というたんぱく質が存在し、脂肪合成を促進する働きがあります。
BMAL1は時間帯によって増減し、日中は量が少なく、夜になると増加するという特性があります。最も少ないのが午後3時頃で、そこから徐々に増えて夜10時~深夜2時頃にピークを迎えます。

そのため、間食を摂るならBMAL1の影響を受けにくい午後3時頃に食べると太りにくいことがいえます。
また、残業やシフトワークなどで夕食時間が遅くなる場合の対応策として「分食」という食べ方があります。夕食の一部を帰宅前の夕方あたりに食べておき、その分帰宅後の食事を軽く済ませるという方法です。
遅い時間の食事量を減らすことで、血糖値の上昇や体重増加を防ぐことができます。

例えば「夕方に職場でおにぎりを食べ、帰宅後は主食以外のおかずだけにする」など、主食となる炭水化物を早い時間に摂っておくのがおすすめです。
食事の総量は増やさず、2回で1食分の食事量になるように調整することが大切です。

★自律神経を整えてストレスにも強い体に自律神経には交感神経と副交感神経があり、心身の緊張状態とリラックス状態のバランスをとりながら体温や心拍、消化吸収など生命維持に必要な機能を維持しています。

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体内時計の乱れは自律神経のバランスを崩す原因となり、不規則な生活が続くことで頭痛やだるさ、胃腸機能の低下、動悸、不安感などの不調をもたらします。
自律神経はストレスとも関与しているため、コロナ禍における外出自粛が続くことによりこのような症状が生じるケースも多くみられるようになりました。

規則正しい生活習慣で体内時計をリセットすることができれば、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくコントロールでき、こうした不調の予防・改善につながることが期待できます。

体内時計を意識した生活習慣は健康づくりの土台です。
テレワークでも1日1回は外に出て日光浴をするなど、無理なくできることから習慣づけて心身のコンディションを整えていきましょう。

参考文献
  • 厚生労働省「e-ヘルスネット」
  • 女子栄養大学出版部「時間栄養学 時計遺伝子と食事のリズム」